すてきな返信①

彼女が背負っているもの
重たい十字架


彼女の心と体の叫びに対し
僕は真っすぐ向き合った。


しかし、僕が考えているほどことは簡単ではなかった。
そのことを徐々に思い知られていくことになる。


彼女は真っすぐだった。
真っすぐに澄んだ心だった。



彼女と直接、会う前の思い出に残る会話が二つある。


一つ目は


僕が110歳になる祖母に会いに

老人ホームを訪ねた時の話である。


『幼少期に一時、両親のもとを離れ、

一人でおばあちゃんと

暮らしたことがあるんだ。


だから僕はおばあちゃん子である。


10年ぶりの再会。


予想以上に

おばあちゃんは元気であり、

笑顔が絶えなかった。


おばあちゃんとの対面を

とても楽しく過ごしました。



でもね

おばちゃん。もう僕のことはほとんど

覚えていなかったんだ。


少し悲しかったけど、

おばあちゃんが元気だったことが

なによりもうれしかったよ。』


それに対して彼女は


『よかったですね。

おばあさんはてつさんに会えて

とってもうれしかったと思います。

てつさんのこと覚えてますよ。

心の中に。

どんなにお年を召しても、ずっと。

うらやましいです。おばあさん。

それとてつさんも。

私もてつさんのおばあさんのように

なりたいです。』


なんだか無性にうれしかった。

心がほっこりした。


すてきな返信ありがとう。

告白

『何か事情があるんですね。
 よろしければ話していただけますか。
 話せる範囲で。』


まだここまでは僕たちの関係は
普通のメル友であった。



彼女からのメールが帰ってきた。


読み終えた後、
僕は声を出さずに独りでそっと泣いた。


どうしてなんだ
どうして
彼女がそんな目に。
あんなに優しい彼女が。


彼女がふとした時にでる
悲しそうな、寂しそうな言葉が


・・・今、繋がった。


彼女は長年、旦那さんからDVを受けていた。
直接の暴力はないそうだが
言葉の暴力、態度の暴力だ。


結婚して10年
子供は小学校低学年


子供が生まれてから徐々に始まり
今では完全に旦那さんに支配されていた。



しかし
僕に迷いはなかった。


彼女を絶対救い出す。

彼女からのSOS

彼女のサイトのプロフィールは
今の僕自身に
一番しっくりするものだった。
何だか安心感があった気がする。


彼女は
ふんわり、ゆったり包み込むような愛情を持ち
丁寧で、心地よい言葉で、
日頃の何気ない話をしてくれた。


僕の要望に沿い
少しずつ、少しずつ、ゆっくりと。


僕はあたりまえのように
彼女に引き込まれていった。



一か月ほど過ぎたころだったであろうか
彼女との会話が日常に溶け込み始めたある日。


彼女から届いたメールは
いつもとは様子が違っていた。


何かに悩んでいる。
何かに苦しんでいる。
何かを恐れている。
何かから逃げようとしている。


そんな内容に感じ取れた。


それは彼女から僕へのSOSだったに違いない。


僕は見逃さなかった
その頃の僕だから見逃さなかったんだ。
もし彼女からのSOSを見逃していたら
きっとここまでの関係で終わっていたのだろう。